Albatross on the figurehead
 〜羊頭の上のアホウドリ


   
BMP7314.gif 小っちゃな勇者の大冒険 BMP7314.gif 〜チョッパーBD記念
 



          




 城は無人の期間が長かったからだろう、あちこちが寂れて崩れかけてもいたけれど。作りはさほど古びてもおらず。北の地とはいえ、さほどに極寒の地ではなかったので窓も大きく、石造りの城内は存外明るかったりし。
「だが、誰の気配もないってのは意外だったな。」
 ここまでの道中で出会っては倒して来た魚人の魔物たちは、一体何物によって此処から追い出されたというのだろうか。まさかとは思うが、ほんの少数精鋭の輩に叩き出されたとでもいうのだろうか。
「え? 何でそんなことが判るんだ? ゾロ。」
「……………。あ、そかそか。すまねぇ。」
 そういや、その辺の推論はあの胸糞悪いコックさんと意見を交わしてたお話だったのだと思い出し、
「だからだな…。」
 一本道だったあの街道のどこにも、普通一般の旅人の気配が他には全くなかった不自然さからの推察を手短に説明すれば、
「…あ、そっか。」
 おおう。やっぱり今まで全然気がつかなんだらしき、何だかお暢気な騎士様であり。
「確かにロビン様なら、そのくらいの遠隔暗示も頑張れば出来るお方ではあるけれど。」
 でもでも、あれれぇ? そんな説明はされてなかった。初日の危機に早速ゾロを召喚
(?)出来たもんだから余裕が出来た割に、一般の人が来合わせていたらばどうなっていたことかを、そういや全く懸念しなかった自分であって、
「………………。」
「いやいや、だから。」
 今になって反省している場合じゃなかろうと、緑頭で屈強な剣士様が宥め賺して。
「それより、だ。」
 一体何物が、あの魚人どもをこっから追い立てたのか。
「街道へ、内陸へと落ち伸びたものはきっと一部に違いない。大半は海へと押し戻した上で、今でも此処に居座ってる手ごわい奴らがいるってことだ。」
 きりりと鋭い眼差しになり、進む廊下のその先をじっとにらんだ雄々しき剣豪さんではあったけれど、

  「…でもなんで。そんな奴が、此処にずっと居残っているんだろうか。」
  「はい?」

 何だかとんでもない格好にて不意を突かれたような気がして、ゾロが虚を突かれたような声を出す。
「だって、言っちゃ悪いけれど、此処にはもうすぐ極寒の冬が来る。雪に封じ込められるほど物凄まじい代物ではないけれど、それでも、もっと南の土地の方が、都会にも近いし、何よりも過ごしやすいのにサ。」
 だってのにね。何だかまるで、
「何だかまるで…またぞろあの凶暴な魚人たちが戻って来ないようにって、そんな用心のために居残ってるようには思えないか?」
「…う〜ん。」
 戦いの知恵や兵法だとか、戦術だとかには疎いトナカイさんだったけど。そういう大局的な物の見方は、むしろ彼のような後方支援タイプの方がお得意であるのかも。彼の言うことも一理あるかもと考え込みかかったゾロだったが、

  「………ん?」

 進行方向の先の先、壁の一部が崩れかかったところから、外の陽光が洩れて来ている一角辺りから、何かしらの気配がするような。かちゃり・かちゃかちゃ、陶器同士がやや乱暴に触れ合う音。それに紛れるように、
「………誰か居るな。」
 人の気配を察知して、ゾロが腰の刀を抜き放つ。チョッパーにもそれは感じられたらしくて、びくくと怯みつつも、頼もしき剣士さんの足元の後ろへとへばりついて従えば、

  「んめぇ〜〜〜っvv これって、もがむぐ、リカの母ちゃんのシチューだなっ!」
  「そだよvv 美味しいだろvv

 女の子の声はどこか楽しげだったので。何だか違和感があったけれど、何、もしかしたらば魔物の子供なのかも知れないしと、緊張したままでそちらへと進む。元からそうなのか、それとも寒い晩に焚き付けにでもされたのか、どの部屋にも扉らしい扉はついていなくて。奥まったその部屋も同様だったので、こっそり近づき、壁に平たく同化するよに身を伏せて、中の様子を伺えば、
「でも、ホンっトにルフィって大食いだよね。」
「んん? そっかな。」
「そーだよう。此処じゃないと暮らしてけないんじゃないか?」
「そっかな。」
「だってよその土地じゃあ、こんなにも海の幸は毎日毎日獲れないだろし。穀物だけじゃあ、あっと言う間に蔵が空っぽになっちゃうぞ?」
「そっか、それは言えてるかもな〜。」
 何とも暢気な会話が聞こえる。窓の外の鎧戸を大きく開け放った広いお部屋には、外からの陽射しが燦々と降りそそいでおり。他の部屋や廊下の陰鬱な暗さが嘘のように、温かくて過ごしやすい、いかにも居間やダイニングという雰囲気のお部屋になっている。壁沿いには食器やグラスがきちんと収められてあるサイドテーブルがあり、床には厚手のカーペット。そしてそして…部屋の中央にはそりゃあ大きなテーブルがあって。そこには山盛りの料理が、果物が、ケーキやお菓子が。これでもかっというノリにて、がんがんと積み上げられてあり。少しほど離れたところに置かれた椅子に腰掛けた小さな女の子が一人、そんな食べ物のお山をにこにこと楽しそうに眺めやっている。ごくそこいらの村の子供というような、普段着のいで立ちをした、まだ十かそこらという年頃の幼い女の子であり、
「………?」
 一応は、魔物か魔王を退治しに来た自分たちだってのに。こんなにもあっけらかんと、一般家庭のリビングな風景が眼前へと現れたもんだから。これは一体どういう罠だろうかと、少々固まりかかってしまったゾロとチョッパーであり、
「ナミさん、遅いねぇ。みかんを見て来るって言って出てったのにねぇ。」
 椅子の脚が少しばかり、彼女の背丈には合っていなくて、爪先をぶらぶらと揺すぶっていた少女がそんな一言を呟いたので、
“ナミって、さっきの?”
 あの、サンジさんが追っかけてった女の人のことらしいなと、チョッパーが思った丁度そのタイミングへ、
「ま、心配はいらねぇさ。」
 食べ物のお山の向こうからの声がして、
「ナミも腕っ節は強えぇ奴だしよ。怪しい奴らがまた来ても、この俺が叩き出してやっから安心しな。」
 しししっとお元気そうな笑い声がして、それから、


  「何せ、この俺は、世界最強の男だからな。」

   ………………あ。


 何かあのその、言ってはならない一言がぽろっとこぼれて来たような。
「………ぞろ?」
 様子見の態勢にあったはずが、不意に、その気配の中、ぐんぐんと膨らんでく闘気があって。この突然の殺気立ちようへは、味方であるはずのチョッパーでさえ、はややと怯んで身を遠ざけたほど。そんな彼が次に取った行動はといえば…もうもう皆様にも察しはおつきのその通り、

  「誰ぁれが“世界最強”だって〜〜〜〜〜っ!!」

 その手にあった2本の和刀。しゃりんと切っ先を戦闘仕様へと固定した上での、ジャンプ一番、襲撃態勢。きゃあああ〜〜〜、まだ敵なんだかどうかも確かめてないってのに。すぐ傍らには、非力であどけない女の子もいるってのに、いきなり何すんのよあんたと。真っ青になって引きつりながら、チョッパーが心の奥底で高らかに悲鳴を上げた次の間合いに。

   ――― がっしゃーんっ、と。

 大量の皿だの鉢だのが一気になだれて崩れ落ちた音と、床へと叩きつけられて砕ける音が長々と響き。それから、

  「リカっ、戸口の方へ逃げてろっ!」

 女の子と楽しそうに話していたあの声が、今度はきりきり引き締まり、そんな指示を素早く出してる。声をかけられた女の子、はいっといいお返事を返してから、たかたか素早く壁へとまずは駆け寄って、それから…テーブルの方へと視線を向けたままにて、横歩きにて戸口の方へと退避して来たから、そこにいたチョッパーとしては、
“あわわ、どうしよ。”
 見つかるようと慌てたものの、それより早く。女の子の足が止まった。真剣なお顔になっており、知らずの事だろ、小さなお手々をぎゅううっと握っていて、その視線はやっぱりお部屋の中央へ。釣られてチョッパーもそっちを見やったれば。

  “………え?”

 これまでそれは隙なくきっちりと、周到な捌き方にてその切っ先を必ず相手へと叩きつけていた筈のゾロの剣を、両方とも。それは見事に大きなお皿で受け止めていた相手であり。瀬戸物や岩でも、鋼でも切って捨ててたゾロだったことを思えば、これはあり得ないほど不思議な現象。ゾロの側にも手加減はなかったらしく。だからこその、怖いくらいの無表情でいる彼だったりし、

  「いきなり乱暴な奴だなぁ。お前ももしかして魚人の仲間か?」

 敵討ちに来たのかと、しししっと笑った相手はといえば。なんとゾロよりもずっと子供っぽい、小柄な少年だったから。

  「えええ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

 何で何で? だって俺たちって、魔王退治に来たのにサ。何でその終着点のお城に、あんな男の子がいるわけなの? でもってその子が、あんなに強いゾロの…山みたいに大きかった猪とか、どいつもこいつも大柄で乱暴凶悪だった魚人たちを片っ端から叩き伏せてたゾロの剣を、何でああまであっさりと止められるの? あまりに不条理なことだらけなもんだから、何が何やらと混乱の極致。自分が上げた大声に、逃げろと言われていた女の子が気がついて、こっちにも侵入者がいたっというよなお顔になったけれど、そんなことにさえ構ってられない状態に舞い上がってたチョッパーであり、

  「誰〜れが、世界最強だってぇ?」
  「決まってんだろ、俺んことだっ。」

 しししっと、あくまでも得意げに笑って言い返す少年へ、ゾロの眉間へコイル状のしわが深々と刻まれ、こめかみには怒りの血管がぴきぴきっと浮かび上がり、
「勝手なことを言ってんじゃねぇっっ!」
 ぶんっと振り切られた刀の剣撃にて。一旦は止まった刃がぎりりと、楯の代わりになっていた皿へと食い込む。砕け散った皿の破片を置き去りにし、左右へそれぞれ大きく飛びすさって離れたものの、
「此処じゃあ狭すぎだな。料理がたまなしになんのもかなわねぇ。」
 少年が苦笑をし、傍らの窓をちらりと見やると、脇に寄せられてあったカーテンへと手を延べて。そんな動作へ好機と見たらしきゾロが突っ込んで来たのへは、背後にあったサイドボードの上から細長い花瓶を掴んで投げつけてから、
「あっ、待てっっ!」
 カーテンを引き千切って腕へとからげ。そのままガツンと窓ガラスを叩き割って、外へと飛び出す彼であり、花瓶を避けたゾロもまた、その後を追ってゆく。
「ぞろっ!」
 ちょっと待ってと追おうとしたが、そんな彼へと飛び掛かったのが、
「あんたたち何物よっ!」
 髪を振り分けかわいらしいお顔の両脇に結った、小さくて可愛い女の子が、こいつだけでも逃がすものかとチョッパーにしがみついたので。そのまますぐには追うことが出来なくて。
「ちょ、ちょっと待ってよ。あの二人、あのまま野放しにしたらきっと………。」
 何だかとんでもないことが、必ず起こりそうな気がするのだけれど。攻撃しているつもりだろう、チョッパーの背中へとおぶさって、枝分かれした角とかお帽子とかマントとか。きぃきぃと引っ張っての狼藉を始めたお嬢さんを、何とか説得しながら、小柄な身の不利も何のその。頑張って頑張って彼らが飛び出してった窓へと近づいて、そこからお庭を見やった、小さな騎士チョッパーは、
「…ありゃりゃ。」
 そこも手入れの入らぬようになって久しいらしき、荒れ放題のお庭が見渡せたのだったが、

  「てりゃあっ!」
  「哈っっ!」

 伸び放題の茂みや木立ち。それが片っ端から倒れるやら千切られるやら。元は蔓バラの這うアーチになっていたのだろう、トンネルのようになっていた茂みが真っ二つにされるやら、その傍らに立っていた桜の古木が倒れるやら。そんな現象が起こった場所では、ばさばさばさっという音が、そんな木々の倒れる音だというには収まり切らぬレベルでの大きさにて立っていて。
「凄っご〜い。あの人、ルフィのこと追っかけ切れてるみたいね。」
 チョッパーにおぶさったまま、先ほど確か“リカ”と呼ばれていた少女がそんな風に言う。
「ルフィっていうの? あの子。」
「そうよ。モンキィ=D=ルフィ。」
 リカちゃんは歌うように復唱し、
「そりゃあ強いんだから。山ほどいた魚人たちをナミさんとたった二人で追い払ってくれて、奴らが舞い戻って来ないかが心配だって言ったら、そのまま此処に残っててくれてるの。」
 お城から公安関係の兵隊さんとかが来て下さるようにって、ずっと前からも村長さんがお手紙を出しているのだけれど。ここいらは海から上がって来にくい地形でね。大きな船が直接乗りつけられるような岸はないしで、それほど危ない土地じゃなかろって。ずっとずっと知らん顔されてたらしいの。でも、その身一つで断崖をよじ登って来れた魚人には関係ないもの。そんなこんなで困ってたのに、お城からは何の助けも来てくれなくて…。
「…そっか。」
 そんなところへ現れて、あんな魔物たちを退治してくれ、自分たちにも御用はあったろうに、此処に居続けてくれている人たち。
“魔王だなんてとんでもないじゃないか。”
 どこでそんな情報になってしまったのか。しかもしかも、国王は此処からの救援のお手紙を確かに受け取ったに違いなかろうに、何の手も打たなかったということか?
“………。”
 これはもしかして。自分たちはとんでもない勘違いをしたままに此処へ来てしまったのではなかろうかと、う〜んう〜んと唸り始めたチョッパーだったが。
「あ、危ないっ!」
 リカちゃんのお声にハッと我に返ったならば。随分と見通しのよくなったお庭の真ん中、間合いを取りつつ向かい合う、ゾロとルフィの姿が見える。ゾロもさすがに相手が素手だということへの対応、その刀の刃が相手へ向かないようにという“峰打ち”握りにしてはいるが、それでもその得物による強かな殴打はかなりのダメージを生んだであろうし。片やのルフィとやらの方も、かなりの手練れであるらしく、身軽な身のこなしであっと言う間に懐ろの中、彼の側に優位な間合いに飛び込んでは、
「ぐがっ!」
 コツをよくよく心得た、かなりの威力のパンチが確実に急所へと決まる鮮やかさ。剣という凶器や体格の差さえ物ともせずに、そして…この対峙をどこかで楽しんでいるかのような、それはにこやかな表情にて。叩いては離れ、叩かれては逃れと、つかず離れつの打撃戦が続く。心なしか、ゾロの側までもが相手の強さや攻撃の手数の意外性へと、苦笑を浮かべている始末。
「…痛くないのかしらね。」
 何で二人とも、あんな嬉しそうなのかしらと。リカちゃんが呆れ気味のお声を洩らし、それを耳にした、チョッパーがハッとしたのは、

  “いけない。このままじゃあ…。”

 よくよく見やれば、双方ともに体のあちこちにたくさんの傷を既に負っている。周囲のことをかえりみない暴れっぷりも問題で、この庭から外へと戦場を移したならば、通りすがりの村人まで巻き込みかねない。
“二人を止めなきゃ。”
 とはいえど。あんなに強い人たちを、この自分がどうやって引き離せるというのだろうか。そういう“困った”のためにと出て来てくれたゾロは今や“当事者”だから話にならない。サンジさんはといえば、さっきの女の人を追っかけてったまんまで戻って来ないし。どうしよどうしよと頭の中が真っ白になりかかったチョッパーでしたが。

  ――― ゾロとサンジと…?

 思い出しました。彼らはどうやって現れてくれたのか。背中に負ってたリカちゃんが下敷きにしていた小さな荷物を引っ張り出し、そこから取り出したのはあの錦の袋。
“確か…。”
 緑に青、そして最後の1つ。真っ赤な水晶珠が残っています。困った時に使いなさいと、ロビンさんから渡されたもの。これは果たしてどんな効果があるのかしら。また誰かが出て来るのかな? ままよと取り出し、お口を開いて、

  「ランブルっ!」

 最後の呪文と共に、思い切り齧ります。すると…。





 段々と息が上がって来た。内陸に上がってさえも結構手ごわかった魚人たちを、それでも楽勝の太刀筋にて沈めて来れてたゾロだったのに。この少年は何とも容易くこっちの必殺の刃を掻いくぐっては、とてもではないが計算してのものではなかろう絶妙な間合いにて、振り払えない至近に接近し、鋭い拳骨を容赦なく飛ばして来る奴で。
「お前っ、只者じゃあないなっ!」
「おうさっ。俺はこれでも海賊王になろうかって男だぜ?」
「海賊王だぁ? 何、寝言言ってやがるかな。」
 笑い飛ばしてやったらば、ムッとしたのか…立て続けのパンチがみぞおちへと喰い込んで来て、
「こんのっ!」
 払い飛ばそうと延ばした剣の先が、離れかかった相手のシャツの胸元を掠め、横に一直線の切り口を生み出す。感情が交じったせいで、離れるタイミングを読み違えたらしく、そういうところはまだまだ青いのかも。
「チッ。」
 自分でもそんな流れになった仔細が彼なりに判っているのだろうか。短く舌打ちをしてから、だが、
「お前だって凄げぇ強い。魚人たちの親玉だった野郎でも、こうまで俺のこぶしを避け切れなかったし、喰らえば絶対、膝ついて蹲
うづくまっちまってたからな。」
 手ごわい相手なのに、どうしてだろうね。叩き伏せ切れないのが嬉しい。戦い続けていられるのが楽しい。こんなまで手ごたえがある相手なんて今までにいたかなあ。ほら、まただ。連打の後に足で払ったの、きっちりハマってコケたのにな。そこへの上からの、体重かけての拳骨だったんだから、結構キてるはずなのに、凄んごいバネで立ち上がっちゃったよ、この兄ちゃん。このヤロ、何て反射してやがる。太刀を重ねて逃げ場のないようにって追い詰めたのに、壁に足かけて駆け登って避けたがった。しかもそのまま、頭から突っ込んで来やがって。痛てぇだろうが、こんの石頭がよっ。何だか途中から、武道の型でも舞っているかのような、絶妙な呼吸の合いようと叩き合いとが入り混じったような殴り合いに化しており。ただ問題なのは、足掛かりにされた古いお城の壁やら、添え木が腐ってしまっているニセアカシアの老木だったりが、悲鳴を上げて軋むこと。そのまま表へでも出てゆけば、様々に大きな被害が出ることは間違いなく。それに気づけぬ当事者たちだと、いち早く気づいた人影が、突然ぬうっと現れいでて、

   「二人とも、いい加減にしないか〜〜〜っっ!!」

 お胸の前での両腕のクロス。それをほどいて両側へ。喰い込む蹄の深さも均等になるよう、同じだけの力を込めて。手ごわい化け物と化していた“喧嘩お馬鹿”の仲間を二人とも、桜の花びら型の痣一つにて、見事仕留めたその人こそは。

  「な…なんだ、こいつ。」
  「まさか…ちょっぱーか?」

 あの小さかったトナカイの騎士様と同一人物とは到底思えぬ立派な体躯。でもでも、その山高帽子には覚えがあったゾロだったりし。そして、
「トナカイちゃん、凄い〜〜〜。」
 おぶわれていた小さな背中、もりもりと盛り上がっていったのを目の当たりにしたリカちゃんが、二人の喧嘩を制してしまった“正義の仲裁仮面”こと、大きな大きなトナカイさんへ、それはそれは感動の眼差しを向けていたりするのだった。


  ……………ということは。最後のあの水晶珠っていうのは、つまり?








            ◇



 正義の仲裁仮面
(苦笑)が何とか引き分けて、さあお話を整理しましょうぞと。全員があの明るかったリビングへと集合し。
「やっと城から誰か来たと思ったら、あんたらみたいな でこぼこトリオだったとはね。」
 やっとのことで追いすがるサンジさんを張り倒し、通りかかった村の衆に縛り上げてもらってから、リビングまで戻って来たのは、ご自分でもそうと言っていた導師様のナミさんで。ひょんなことからこの大喰らいで力持ちのルフィさんと一緒の道行きと相なり、通りかかったこの村で、魚人たちが好き放題をやっているのを見るや、あっと言う間の大殺陣回りにて全員を追い出してしまった凄腕のコンビは、せめてお城からの救援警備が到着するまではと、魚人たちからの報復を受けて立つことも兼ねた上で、此処に居続けてくれており。
「一体何を考えているのよ、あんたらんトコの王様ってのはサっ!」
 いい加減にしないと、温厚なあたしだっていい加減切れちゃうわよと。もうとうにキレておいでのナミさんが叫んだところへ、

《 その身にお怪我を負うやも知れぬ、危険をさえおしての大いなるご尽力と、その後も見捨てず、我が国の民をお守り下さっておられたあなた方には、我々も大変感謝しております。》

 唐突なお声がして。あれれぇと辺りを見回せば。窓辺に留まりし小さな小鳥。室内の人々からの注視を浴びても、すくんで飛び立つ気配はなくて。

《 こちらの村の長殿からの、至急守護を請うというお便り。間違いなく届いておりましたというに、それを扱う整理の者が、一体何を定規にしてか勝手に順位をつけての後回しを図っておりましたこと。つい最近になって判明し、しかるべき仕置きを処しましたのが。先日、そちらの小さくも勇敢なるトナカイの騎士殿が、国王に此度の召喚を受けましたる前日のこと。》

 そんな次第をすらすらと淀みなく語るお声には、首都から来たりし3人には様々に覚えがあって、
「これって…。」
「ああ。」
「ロビンちゅあ〜んのお声じゃあないですかvv」
 …どういう知り合い方をしたんだサンジさんたら。

《 あなた方が退治して下さった海からの魔物のうちの一部が内地を南下し、首都城下へと近づいておりました気配をもって、北の辺境に魔王が現れたという誤報や噂が流れて来ましたのも、早急に手を打たなかったが故の情報の歪み。そのために、そちらへの旅人も減り、ますますのこと現地の窮状が伝わらず、重ね重ねの失態をほんに申し訳無く思いますと共に、今回向かわせましたる、腕のいいお医者と凄腕の剣士、これもやはり強者のシェフ殿をもって“守護”として当地へと配しますれば。》

 黙って聞いてりゃ…な雲行きへ、
「………え?」
「おいおいちょっと待てや。何で俺がそんな職務を押し付けられにゃあならんのだ。」
「ロビンちゃんもたまにお顔を見せに来てくれるってのなら、俺は喜んで引き受けちゃいますよんvv」
 やっぱり、それぞれに様々な反応をしている でこぼこトリオであり。とはいえ、

  「トナカイちゃん、此処にずっと居てくれるの?」

 ちゃっかりと混ざってお話を聞いていたリカちゃんがそれは目映い満面の笑みを見せ、

  「そっか。あんたシェフなんだ。
   美味しいもの、作れるの? 此処の奥様がたもかなりの腕前だよ?」

 導師様にしては、マイクロミニの裾から覗くすんなりした御々脚が目映いナミさんが、やや挑発的にも“うふふんvv”と笑って見せ。そしてそして………。
「やっぱ凄腕の剣士だったんか。お前が倒せないようでは、海賊王になんて到底なれねぇってことだろな。」
 やはは…vvと、妙に明るく笑った食いしん坊の少年には、
「お、おうよ。そういう理屈になんだろうよな。」
 あれあれ? 何だか、歯に衣着せてるような口調じゃあありませんこと? 剣豪様ったらvv ああまで歯ごたえがあった対戦相手ってものには、久しく会ったことがなかったから? ほほぉ?








        



「………という訳で。小さくて勇敢なる、騎士にして名医のトニートニー・チョッパーは、北の古城に常駐の頼もしいお医者様、兼凄腕の守護様となり。お供の凄腕の二人もまたそれぞれに、旅の途中だったっていう暴れん坊と麗しの導師様がそこへ居残るのならばと、彼の補佐をするという名目にてその村に居着くこととなり。雪の季節がやって来ても、それはそれは幸せで楽しい長閑な村には笑顔が絶えず、後世にはドラムランドで一番に栄える町へと発展するのでありました。以上っ。」

 この船ではクリスマスを後の祭り
(?)に、まずはと優先してお祝いされて久しい、トナカイドクターのお誕生日。御馳走やお酒、きれいな包みで飾られたお菓子に銘々からのプレゼント。小さな電球がちかちか瞬くツリーやお部屋の華やかさと、シャンパンやワインで浮かれちゃった皆を集めて、それじゃあと。我らが誇る楽しい語り部の文豪ウソップがこの日までにとまとめし原稿を、情感も豊かにご披露すれば、

  「おいおい、何だよそれ。俺様、そんな辺境の土地に居残りか?」
  「あら。何よ、サンジくん。あたしが居るってだけじゃあ不満なの?」
  「あ、いやいやそんな、滅相もない〜〜vv
  「珍しくもウソップがあんまり出張ってはないんだな。」
  「いや〜〜〜。登場人物を盛り込み過ぎてな。
   この後、城からの大きな行列が出て、偉大なる国王が任命式を執り行う場面で
   派手に登場して活躍させるつもりだったんだが、間に合わなくって。」
  「ロビンが凄く偉い役だったなぁ。カッコよかったぞ?」
  「うふふvv ありがとう♪」
  「………何か俺の滞在理由ってのが曖昧すぎないか?」

   「そーかなぁ〜〜〜?」×@

  「お前ら…。」
  「え? え? どしたんだ? 皆?」


 窓のお外には、音もないままに海へと降り始めた白いものが ちらりほらり。風花だろうか雲はなく、月を映した波間へと、天からの星のように振り落ちては消えてゆくばかりな来訪者。気がついたおチビさんたちが飛び出して来るまでのドキドキ。こっそりこっそり甲板へ、空からの贈り物が降り積もる………。





  
HAPPY BIRTHDAY! TONY TONY.CHOPPER!



  〜Fine〜  05.12.23.〜12.24.


  *初日の晩に、不意な腹痛にもんどり打ってしまい、
   間に合うのかとハラハラしまくったお話です。
   そもそも何でこうまで長いお話になったやらですが、
   これもまた、あの“ルフィ親分”の後遺症なのかも?
   小さなドクターの冒険話、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
 

ご感想はこちらへvv**

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